正しい年の取り方

人生に迷うアラサー男が年相応になるまでの雑記

人それぞれに歴史があり、それに触れることでその人に対する見方も変わる

こんばんは。

 

今日は仕事でとある事業主のところに行っていた。新しく投資をしたいらしく、資金繰りの相談を受けていた。

 

私はこの事業主さんのことを好ましく思っていなかった。今回のような資金繰りの話だけではなく、とあるソフトの使い方も教えていたりするのだが、なかなか使い方を覚えてくれない。

 

dramadmara.hatenablog.com

この記事で挙げたソフトと一緒なのだが、これの使い方を覚えてくれない。何年も使っているのに、毎年覚え直している。

 

毎回「おっす!今日も教えてくれや!」とやってくる。今日も、じゃなくていい加減覚えてくれ……。その進歩のしなさが私をイライラさせているのだ。

ただ、今回の相談の場で昔話を聞かされて印象が変わった。人の歴史を知るとそれまでの行動・言動に対する見方も変わるのかもしれない。

ここではその事業主をJとする。

20年ほど前、彼はあるメーカーに勤めていた。普通のサラリーマンで、そのころにはすでに家族を持っていたようだ。

「普通の人生」と言えば現代ではかなり貴重な存在だ。そういった目で見れば順調な人生に感じられるが、流れが少しずつ変わっていく。会社の業績が悪化していったのだ。

 

彼は悩んだが自主都合退職を選ぶことにした。

 

当時の退職を彼はこう言う。

「もういつ辞めるかが問題だった。あと一年長くいたら退職金は少なくなっていたかもしれない」

なぜ退職金が少なくなるのかは私にはよく分からなかったが、彼は突き動かされるように退職した。しかし彼は単身者ではない。働いて家族を養う必要があった。

 

彼が選んだ道は起業だった。何を元手にしたのかは分からない。それまでの貯蓄か、退職金か、借入か。

 

始めたのは農業だった。農業で家族を養うと決めたのだ。

ちなみになぜ農業を選んだのかはよく分からないが、Jが機械をいじるのが好きだったというのは大きいと思う。

 

現在Jの住む地域では新規就農者が少なからずおり、彼らは園芸(野菜や果樹)に取り組む事例が多い。なぜならば農業機械や施設への投資が比較的少なく済むし、栽培面積が小さくても食っていける所得を出すことが可能だからだ。

単純に「米価の下落が~」という刷り込みを受けていたり「園芸の方が楽しそう!」と思う人が多いように思う。

 

簡単に言うと園芸での投資はトラクターとハウスがあればなんとかなったりする(代わりに人手が必要なこともあるが)。

しかも最近では農業を辞める人の資産を継承することで比較的負担の少ないスタートを切れる事例もある。

 

だが、Jが農業を始めた当時(今でもそういう部分はあるが)、農業という仕事は世襲制だった。それは即ち上記のような資産を継承するといったことがあまりないということだ。

親が専門的に農業をやっていたわけではなかったのでJはイチから農業用機械をそろえる必要があった。

しかも取り組んだのは水稲や大豆のような主穀作だった。当時は今ほど米価も低くないし、妥当な判断だろうと思う。当時、地域的にも水稲しかやらない風潮があったようだ。

 

主穀作は当時でも機械化が進んでいたが、それは逆に言うと農業機械を導入しないと規模拡大に対応できないということだ。規模が拡大できないと機械を投資しても費用対効果が悪くなる。

 

例えば自家用車を10,000㎞しか乗らないのと100,000㎞乗るのでは後者の方が費用対効果良いでしょ?

しかも農業機械の場合、動かせる時期が一年の中で限られているから稼働率が悪い。だからなおさら1回あたりにこなせる面積を大きくするのは大事なこと。

 

そこで彼は中古品の農業機械を揃えて農業を始めた。

 

先ほどからあたかも規模拡大しなくてはならないかのように話しているが、それは当たり前だ。家族も養っていかなければならない。所得を増やしていく必要があるから、経営のレベルも上げていかなければならない。

 

規模拡大、つまり栽培面積を拡大させるのに必要なのは地域からの信頼である。そして、それはすぐに得られるものではない。

彼はちゃんと田んぼを耕し、管理して周囲の地権者から信頼を得た。栽培面積を徐々に増やしていった。

 

そしてJは得られたキャッシュや新たな借り入れをもとに限界を迎えた中古品を新品へと買い替えていった。彼にとってはそういった農業機械の更新が実績だったのかもしれない。

自分の稼いだお金で家族を養い、その上で事業へも投資できたその証拠だから。

 

 

 

今回の投資の相談は、最後の機械の更新についてのものだった。

 

彼は相談の最中に何度も「家族にお金を残しておきたい」と言っていた。だから会う度税務の際どい質問をしてくるのだろうか(税理士法の関係で答えられないが)。

「借金は残したくない」とも言っていた。だから借り入れの本数や元金も自身の頭に入っている。Jは普段のお金の扱いは雑だが、それでも根っこには自分なりの考えを持っているのだ。

 

彼に後継者はいない。子供は他の仕事に就いている。子供に特段農業をすすめるつもりもなかった。法人化して従業員を雇って後継者育成をしようとも考えていたらしいが諦めたとのこと(この辺は詳しく聞いてない)。

 

それを知って残念に思った自分に驚いた。あんなにいつもイライラさせられているのに。普段の振る舞いしか見てこなかったが、Jの中にある歴史に、別の側面に触れたせいかもしれない。家族のために働いたその思いはきっと実直なものだったのだ。

 

だから今度からは優しくしようか……なんて思わないからな!!!