この記事の読者に、プロポーズをした/された経験のある方はどれくらいいるだろう?
私はない(威風堂々)。
したことがない私が言っても何も響かないと思うが、大事なのはタイミングだ。
今回はプロポーズできなかった人の話をする。
他人に対する疑惑はひょんなことから起こること、人柄はそう簡単には見抜けないという話。
まぁ実際はプロポーズどころか色恋沙汰の話ですらないのだが、喩えとしてプロポーズがあまりに適切だったため男女間のプロポーズに置き換えて話をしたい。
ある中年男女の出会いと関係の進展
今回の登場人物は宇治原と山田。
宇治原は中年というべき年齢の男性で、周囲からは仕事をちゃんとこなす男、気が利く男と評されていた。顔はお笑い芸人ロザンのクイズが得意な方に似ている。
山田も近い年齢の女性。性格はきっちりしており、結婚したい意識も強い。顔は髭男爵の「ルネッサーンス!」って言う方に似ていると思う。
私は宇治原とは4月に知り合い、たまに遊ぶ関係となっていった。それに伴い、宇治原の友達とも交友関係を持つようになった。
その中で、少しずつ山田のことも聞くようになった。
2人はもともと顔なじみではあったが、付き合うようになったのは最近だ。どうも宇治原が以前付き合っていた女性と別れてからの関係らしい。
宇治原が前の女性と別れたのが3月。山田との付き合い初めが4月。手が早いものだと思った。桜はすぐに咲いた。
お互い年齢が年齢だけに、そこからは早かった。
何度デートを重ねたのだろう。そのすべては分からないが、2人はすぐに同棲を始めた。
形としては山田の家に宇治原がゴロンと転がり込んだ。
転がり込んでから宇治原はあらゆる家事をこなし、山田のためにご飯を作るなど、甲斐甲斐しく世話を焼いた。
お互い相手のことを好意的に見ていたことは間違いない。
周囲からこの2人はお似合いとされていた。山田の友人からも宇治原の人柄は「真面目な男だ」と評価されており、私はこの2人が結婚するものだと思っていた。2人とも年齢を考えればこれが最後の相手になるに違いない。
さっきから年齢年齢言ってるけど明日は我が身なんだよな。
異変、急転直下
ところが10月のある日、宇治原から私に一報が届いた。
「山田が口をきいてくれなくなった。何を言っても話してくれない。」
それは宇治原にしては珍しく電話での連絡だった。
宇治原とはいつもLINEでやりとりする関係だった。そんな彼が電話してきたのだからただ事ではないと思った。3分ほどの、男同士にしては長ったらしい電話だった。
目に見えなかったが、彼も肩を震わせていたと思う。少なくとも声は震えていた。
宇治原は山田の家を出て、自分の実家に帰っていた。
それからは(なぜ開催されることになったかは分からないが)友人を集めてAのための作戦会議を行うこととなった。
それも複数回行った(ほとんど出ていない)。開催ごとに宇治原は山田に関する新しい情報を持参してきた。
「山田は借金があるらしい」
「山田の親から何か言われているらしい」
どこでそんな情報を集めてきたのだろう。
会議は難航。
「どうしてそんなことになったのか」
「もう諦めて他に行けば」
同じ言葉が繰り返され、内容も煮詰まってきた。何も解決しない。
そんな不毛な作戦会議が繰り返されたが、その最中宇治原は山田に何度か会いに行って言葉を交わしていくうちに、会話はできるようになった。宇治原は何とかモトサヤに戻れるかもしれないと喜んだ。
しかし、どうもよりを戻す形にはならなかったらしい。
宇治原は山田を諦め、そして結婚すること自体も諦めた。結婚することを諦めた理由はよく分からんけどね。
山田も結婚を諦めた。自身の年齢を鑑みた結果だという。
ここまでは私から見た目線で語った。しかし何がいけなかったのだろう。
宇治原の何が悪かったのか?山田の心境の変化はなぜ?
ここからは他の人の意見を交えて話す。
何がいけなかったのか?
総じて言うと、宇治原の態度がはっきりしていなかったのが原因だ。
宇治原は結婚を申し出なかった。
宇治原は探りすぎた。
その結果、宇治原は信用を失った。
まず、山田の心境が変化した時期は8月にまで遡る。
同棲してしばらく経って関係がダレる時期でもあると思う。
山田の中で違和感が芽生えた。
「この男はなぜ私に尽くすのだろう?」
「なぜいつまでもプロポーズしないのだろう?」
同棲なのだから、お互い家事でもなんでもシェアしていくべきだ。それなのにこの男は何から何までしてくれる。なぜだ?
私たちはどちらも結婚をするには最後のチャンス。いつまで独身のままでいるつもりなのだろう?
一方で山田は親から
「それ、何かの詐欺なんじゃないの?」
とも言われ、不信感は汚部屋のホコリのようにジワジワと溜まっていた。彼女は前述した通りきっちりした性格で、不信感に耐えられなかった。
そんな山田の気持ちに宇治原は気づいていなかった。
9月に山田は耐えきれなくなり宇治原に問いかけた。
「私たち、結婚しなくていいのかな?」
「もうちょっと、考えさせてくれないか」
この発言は大きなやらかしではないかと思う。
実は宇治原は友人からも同様に「結婚の意思表示は早めにした方がいいのではないか」というアドバイスを受けていた。
それに対しては
「まずは山田に俺のことを認めてもらうことが先だ」
と返していたそうだ。私には認めるということがどういうことか、はたまたどうなれば認められたことになるのか分からないが、なあなあにしたようにしか見えない。
宇治原の友人たちはその後その話はしなかったが、ちゃんとしたものだと思っていたらしい。
そんな宇治原の態度に不信感が爆発したのが10月だったのだ。
加えて、探りすぎたのがよくなかった。
宇治原は山田の自身に対する心象や何かしらのとっかかりを求めて山田の知人周辺を探り始めた。
作戦会議の度に持ってきた情報は、山田目線で言えば、山田の知らないところでコソコソと嗅ぎまわって得たものだった。
「山田のせいで」や「山田との仲が悪くなって」といった言葉を添えて。
当初はその言葉に協力的だった山田の知人も探りが入るごとに宇治原に対する印象が変わっていく。
「この男は大丈夫なのか?」
そのうち山田の耳にも入り、なおさら心証が悪くなった。自分だけでなく、周りからの評価もよくない。加えて親の言葉。もう、何も取り戻せなくなっていた。
山田が宇治原と話をするようになったのは別れ話をするためだった。
ただ、それは別れ話を進めるためだけであって、よりを戻す意向は全くなかった。
宇治原は完全に信用を失っていた。
まとめると、宇治原は態度をはっきりさせなかったことで疑いを持たれ、関係の修復のためあれこれ嗅ぎまわっていたのが裏目に出た。
要所で決めるところを決めておけばこうならなかったはずだ。
要所で決められる人間かどうかというのは平時の行動だけでは分からない。
むしろ平時の振る舞いの積み重ねが人の評価を作るのがほとんどである。だからこそ私を含め宇治原の友人たちは仕事をしっかりこなす宇治原は何事もしっかりしていると判断していた。
どこかのタイミングでしっかり結婚の意思表示をしたものだと思っていた。それが甘かった。
宇治原は山田に聞かれたタイミングで強く意思表示するべきだったのかもしれない。
我々はどこかのタイミングで意思表示をするよう強く言うべきだったかもしれない。
結局誰も救われなかった。
要所で決めることは大事だ。どこが要所か見極めることはもっと大事にちがいない。
例によってオチはない。